沖田総司と運命の駄犬
数日後、梓が、元の時代へ帰ることが決まった。
沖田「これで良いんだ・・・。これで・・・っ。」
考えただけで、涙が込み上がるのをグッと我慢して飲み込む。
そして、梓の事情を知ってる者だけで、送別会をする事となった。
沖田「僕が、席を設けておきます。里音にも話があるので・・・。」
土方「あぁ。頼んだ。」
僕は、角屋に行った。
沖田「すみません。新選組で一席設けたいのですが・・・。」
女将に頼んで、席を用意してもらえた。
僕は、里音に会いたいと頼んだ。
すると、女将は苦い顔をする。
沖田「何かあったのですか?」
女将「あの子はもう、お座敷には上がれません。」
沖田「え?どうして?」
女将「労咳だったんですよ!沖田先生は、大丈夫でしたか?」
沖田「労咳?」
女将「えぇ。ちょっと訳ありの子でしてねぇ。今は、もう、起き上がれないんですよ!」
まさか・・・。
嘘でしょ・・・。
じゃあ、僕は、里音に病を移されたの?
僕は、里音に真実を聞きたいと思った。
女将にお願いをして会わせてもらうことにした。
沖田「里音?」
里音は、生気を失い、うつろな目をして、浅い息をしながら咳を零していた。
沖田「さ・・とね・・・大丈夫?」
部屋に入るなという女将の言葉を受けて、僕は、廊下から話しかけた。
声をかけると、里音は、ゆっくりと僕の方を見た。
里音「あぁ・・・。沖田先生・・・ゲホッ。ゲホッ。ふふっ。コホッ。コホッ。バレてしまいましたね。ゲホッ。」
僕は、怖くなった。
沖田「ろ、労咳なの?」
里音「えぇ。もう、手遅れ。でも、あなたに移ったでしょ?」
里音は、ふふっと笑い、咳と共に血を吐いた。
里音「はぁ・・・。はぁ・・・。本当は、近藤に移してやりたかったけど、あんたも幹部の一人。私の復讐も、なんとか出来た・・・。」
復讐?
沖田「どういう意味?」
里音「私は、あんた達が、殺した男の妻だった。あの人が、殺されて、行くあてが無かった私は、ここにたどり着いた・・・。本来なら、武家の奥方だったのに、いろんな男に体を・・・。この病になったときに誓ったの・・・。絶対、誰かを病に陥れてやるって・・・。刀は強くても、病には勝てないでしょ?沖田総司。あんただけ幸せになるなんて、許さない!」
僕は、青ざめる。
里音は、復讐のために僕らに近付いた・・・。
里音「さぁ。どうする?私みたいに、病を、愛しの梓に移す?くくっ。あははははっ。ゲホッ。ゲボッ。」
ゴブゴブと音を立て、血を吐く里音から、目を逸らして、僕は、無我夢中で屯所に逃げ帰った。
部屋に戻り、呼吸を整える。
沖田「そんな・・・。そんな・・・っ。」
僕は、手を顔に当てて座り込んだ。
僕は病で死ぬと、土方さんが言ってた・・・。
僕の行く末は、さっきの里音みたいに死ぬの?
刀や戦ではなく、病で死ぬの?
僕は、自分自身を抱きしめ力を込めた。
沖田「ヤだよ・・・。あんなの・・・。嘘だよ・・・。僕は、労咳なんかじゃないっ。」
僕は、違うと、思い込もうとした。