沖田総司と運命の駄犬
梓の怪我がよくなり、宴の場で、梓は、皆にお礼を言っていた。
この宴が終われば、梓と別れる。
苦しくてたまらない。
このままこの部屋にいたら、涙がこぼれてしまう。
僕は、そっと、部屋を抜け出した。
気持ちを落ち着かせるために、夜風を当たりに外へ出た。
沖田「はぁ・・・ねぇ、梓・・・これで、良いんだよね・・・。」
僕は、息を吐いて、気持ちを落ち着かせると、部屋に戻ろうとした。
すると、目の前で、酔っ払いに、絡まれている梓がいた。
腕を掴まれて、引きずられ部屋に連れ込まれそうになっていた。
梓「ちょっと!止めて下さいっ!連れが・・・。」
「良いじゃねぇか。お前におなごのべべ着せて遊んでやる。な?」
梓「ヤダっ!」
僕は、梓の腕を掴んでる男の手を払った。
「痛ってぇな!何しやがる!」
沖田「それは、こっちのセリフですよ。今宵の主役を連れて行かれては、うちはただの飲み会になるじゃないですか。」
「あんだぁ?てめぇ?」
沖田「何ですか?なんなら、外に出てお相手致しましょうか?」
僕は、威圧的に言う。
梓「沖田先輩っ!」
梓が、僕の名前を呼ぶと、男は、みるみる青ざめる。
「沖田?沖田って・・・まさか、新選組の・・・。」
沖田「よくご存知ですね。はい。僕は、新選組 一番隊組長の沖田ですが?」
「ははっ・・・。いや・・・じょ、冗談だよ・・・。すまなかったな。」
僕達は、昔からの壬生狼と町の者から恐れられていた。
前の池田屋事件からより一層、怖がられている。
男が逃げて、僕は、大袈裟に溜め息をついて言った。
沖田「はぁ・・・。最後の最後まで迷惑かけていくって梓らしいね。」
梓「すみません。」
沖田「ちょっと、風に当たろうか。」
梓「はい。」
きっと、これが、二人きりになれる最後の機会だ。
僕は、梓を外に連れ出した。
二人で、河辺に腰掛ける。
梓「沖田先輩。たくさん、迷惑をかけてすみませんでした。」
沖田「本当に、迷惑ばっかりだった。」
梓「でも、私・・・。沖田先輩に出逢えて良かったです。これ、感謝の気持ちです。良かったら使って下さい。」
梓は、包み紙を渡してきた。
開けてみると、中には扇子が入っており、その扇子に書かれた文字と絵を見て僕は、固まった。
沖田「何?・・・っ。これ・・・っ。」
梓「へへっ。これ、沖田先輩の好きな言葉と、私と沖田先輩!」
そこには、僕が、渡せなかった櫛に描かれた同じ犬とだんごの絵が描かれていた。
ギュッ。
僕は思わず、梓を、抱きしめた。
梓「え・・・?」
僕達、同じ気持ちなのに・・・。
どうして、離れないといけないんだろう。
どうして、一緒に、いちゃいけないんだろう。
僕の目から涙が溢れた。
行かないで・・・。
ねぇ、梓・・・。
僕の側に居てよ・・・。
沖田「な・・何なの?これ・・・っ。こんな有名な書家の先生に、こんな・・・っ。こんな絵を・・・っ。」
梓「確かに、絵は描かないって言われたんですけど、お願いしたら、描いてくれました。」
ダメだ。
これ以上、抱きしめていたら、ここから連れ出したくなってしまう。
僕は、胸がえぐられる想いを飲み込み、梓に最後の挨拶をする。
沖田「そっ・・か・・・。梓・・・。幸せに・・・ね?」
梓「はい。」
梓は、僕に擦り寄りキュッと腕に力を入れた。
離れたくない。
沖田「梓・・・っ。」
僕は、自分の腕に力を込めた。
そして、少し離れると、目が合い見つめ合う。
すると、梓が目を瞑った。
まるで口付けしてと言うように・・・。
触れたい・・・。
でも、きっと、触れたら、離せない。
僕の頭の中で、里音の姿が、自分に重なった。
病なら、梓を守ってやる事が、出来なくなる。
土方さんの話は、嘘のような話だけど、あの人は、僕達には、嘘は吐かない。
梓を一人にして、危険な目に遭わせて、後悔するなら、離れるべきだ。
ギュッ。
梓「痛い!」
僕は、梓の頬をつねった。
沖田「変な気、起こすんじゃない!」
断られた事が、恥ずかしかったのか、梓は、真っ赤になっていた。
僕達は、ゆっくりと離れた。
沖田「そろそろ、帰ろうか。」
梓「はい・・・。」
角屋に戻ると、屯所に戻る者達と合流した。
山崎さんの横に並び、歩いている梓の姿を、僕は、後ろから眺めて、目に焼き付けた。
梓が、帰るのは、明日の僕の見廻り中だ。
永倉さんが、代わってやると言ってくれたが、僕は断った。
何もなければ、梓を奪いに行ってしまいそうだから。
僕は、梓の無理してるとわかる元気な声を聞きながら屯所へ戻った。