沖田総司と運命の駄犬
梓は、僕の側を離れず、ずっと、僕の側に、いつもいた。
僕も、一人で過ごして居たときとは違い、少しずつ、笑うようになっていた。
沖田「梓・・・おいで?」
僕が、呼ぶと、必ず、梓は、側に来て、僕の顔に頭を、すり寄せてくる。
それが、心地良い。
心は穏やかになっていくが、体は、段々いうことを利かなくなってくる。
僕は、皆が、甲府に向かうのに付いて行くことにした。
故郷が恋しくなったのかもしれない。
僕は、江戸へ発つ前に、近藤先生にお願いをした。
梓を連れて行きたいと。
近藤「猫は構わないが?」
沖田「いえ。本物の・・・。」
近藤「なっ!まさか、お前・・・。仏を掘り出すつもりかっ!?」
沖田「僕は、きっと、こっちには、帰って来れないから・・・。でも、梓と離れたくない。お願いしますっ!」
僕は、頭を下げた。
しばらく、考えて、近藤先生は、頷いてくれた。
しかし・・・。
沖田「え?居なかった?」
掘り起こした棺桶の中には僕が、最後に、梓の髪の毛に差した櫛だけが残っていたとのことだった。
沖田「櫛は、持って行ってくれなかったの?求婚断られたの?僕・・・。梓ごときに振られるとか有り得ないんだけど・・・。」
強がってそんな言葉を吐いてみたけど、苦しかった。
その夜、涙が、止まらず、その涙をずっと、猫の梓が、舐めとってくれていた。
しばらくして、僕達は江戸に向かった。
僕は、籠の中で、梓を膝に乗せていた。
櫛を持ってきてしまった・・・。
未練たらしいな・・・。
その櫛で、僕は、梓の毛を梳いてあげていた。
故郷に帰ると、皆、これでもかというくらいお祝いをしてくれた。
そこで、僕は、皆の前で、四股を踏んだ。
起き上がるのも難しかったけど、何故か、その時だけは、足に力が入った。
皆、泣きながら笑ってる。
それで良い。
僕の膝で、梓は、安心しきった顔で寝ている。
それから、僕は、すぐに、体調が、悪くなり、甲府には、向かわず、千駄ヶ谷の植木屋に戻ることとなった。
僕は、漠然と思う。
ここが、僕の死に場所だと。
心配なのは、黒猫の梓だ。
一人にさせてしまう。
ここの人が、飼ってくれるかな。
病のせいで、自分が、おかしくなることがある。
前に、梓を斬ろうとしたのだ。
まだ、僕は、刀を握れると思いたかった時、ちょうど、猫がいた。
僕は、刀を取ってもらい、杖にして猫に近付いた。
バタンッ。という大きな音と共に崩れた。
あんな猫すら斬れない・・・。
沖田「あんな・・・っ。猫すら、斬れないなんて・・・っ。斬れないなんて・・・っ。」
僕は倒れたらしい。
気がついたのは、数日後だった。
ボーッとする。
それにしても、近藤先生のお便りが、最近来ない。
僕の世話をしてくれている婆さんに聞いても、忙しいのだろうと言うばかり。
そんな時、いつもの猫がいない。
沖田「ねぇ。婆さん・・・。猫・・・来てるかな?」
すると、フラフラと黒猫が、僕の胸の中に潜り込んだ。
僕も安心して、目を瞑った・・・。