沖田総司と運命の駄犬
その日は、非番で、またいつもの空き家で、お美代ちゃんと、逢瀬をしていた。
美代「総司はん。この帯、この間、仕立てたんです。どうですか?」
沖田「うん。すごく似合ってる。お美代ちゃんは、色が白いから、そういう色合いが、似合うね。」
美代「ふふっ。ありがとう。」
すると・・・。
ガタガタッ。
美代「え・・・?」
僕は、お美代ちゃんを、後ろに庇い、刀に手を置く。
何か、言い争ってる声がする。
沖田「見てくるから、ここにいて?」
そう、小声で言うと、お美代ちゃんが頷く。
僕は、足音を立てずに、音のした部屋に向かった。
『信じる方が、悪いんだよ・・・。それにしても、あんた、変わった格好してるなぁ。その着物・・・。売ったら、高く売れる・・・。お前も、味見した後、ちゃんと、売ってやる。』
『そんな・・・っ!ヤダ!』
男が、おなごを襲おうとしているのか・・・。
こんな所に付いて来た方も悪いよね?
警戒心が、無さ過ぎる。
箱入り娘なのかな?
すると、おなごが泣き出した。
僕は、刀を抜いて、男の首元に這わせた。
沖田「やめた方が良いですよ?止めないと、その首、斬り落としますよ?」
男は、ゆっくりと立ち上がり、逃げていった。
すると・・・。
「お、沖っ!沖田先輩っ!」
おなごがいきなり、僕の名前を呼び、抱きついて来た。
沖田「ちょ!ちょっと!」
「怖っ・・・っ。怖かったっ!沖っ!沖田先輩っ!!!うっ・・・。うっ・・・。うっ・・・。」
ガッチリ僕に抱きつき、泣き出した。
しばらく唖然としていると・・・。
「総司はん?」
あ!お美代ちゃん!
ドンっ。
梓「痛っ!」
僕は、咄嗟に、目の前のおなごを払いのけた。
こんな抱きつかれてるところなんて見られたら、どんな勘違いをされるか、わからない。
美代「総司はん?そのお方は?」
沖田「お、お美代ちゃん!何でも無いよっ!この変なのは、関係ないから!」
「そんな!守るって言ってくれたじゃないですか!だから、私、ここまで、来たのに!付き合ってるフリまでさせて・・・。うっ・・・。うっ・・・。」
何、言ってくれてんの?コイツ。
美代「総司はん、うちのことだけとか、言っておきながら、他にも、おなごがおりましたんやなぁ。酷い・・・。」
お美代ちゃんは、案の定、勘違いをして、出て行こうとする。
沖田「待ってっ!お美代ちゃん!違うんだっ!こんなおなご、本当に、知らないんだっ!僕には、お美代ちゃんだけ・・・。」
美代「嫌っ!総司はんなんて知らんっ!」
僕は、お美代ちゃんの腕を掴んだが、それを、振りほどき、お美代ちゃんは去っていった。
「あの・・・。沖田先輩・・・。もしかしなくても、私、悪いことを・・・。」
今更、状況を把握したらしいおなごが、恐る恐る、訊ねてきた。
沖田「うん。したよね?どうしてくれるの?助けてあげたのに、何?この仕打ちみたいなのは?感謝は、されても、僕が、迷惑を被る理由なんて、どこにも無いよね?」
「ごめんなさい!彼女が、いるなんて、聞いてなかったので・・・。」
沖田「さっきからさぁ、気になっていたんだけど、僕のこと知ってるの?沖田先輩って何?」
梓「知ってるって・・・。あなたが、ここに連れて来たんでしょ!?兄のように慕っている、土方さんって人を、助けたいからって!」
沖田「僕は、君なんか、知らないよっ!しかも、土方さんを兄って!そんな事、誰にも、言ったことないし!って、土方さんを助けるってどういう事?」
コイツ何?
何で、土方さんの名前を知ってる?
それに助けるって・・・?
あの人、誰かに、狙われている?
コイツは何を知っている?
僕の纏う空気に、顔をひきつらせて、おなごが、一歩ずつ、後ろに下がる。
僕は、脅しに、刀に手を置いた。
沖田「僕から、逃げようっての?そこから、動いたら、斬るから。土方さんを助けるって、どういう事か、説明しなよ?というか、君、怪しいから、屯所に連れて行くね?」
「何もないなら、私、もう、帰りたい・・・。」
沖田「君、僕の話、聞いてた?君は、今から、屯所行きだから!」
僕は、この怪しい奴を、屯所に引きずっていった。