Green Magic〜草食系ドクターの恋〜
再び熊谷さんは作業を始め、僕は本を読み始めた。
何も言葉を交わすことはないが、居心地は悪くない。
しばらくすると、熊谷さんは作業を終えたのか片付けを始めた。
「先生、休憩中に失礼しました。次回からは時間を変更した方がよろしいですよね」
いや、それは困る。
困る?
困るのか?
困りはしないが、この空間がなくなるのは惜しい。
「いえ、この時間でお願いします。でも、熊谷さんが作業をしにくいのであれば、僕が席を外しますよ」
ぼく言葉に熊谷さんは慌てて、「いえ、作業がしにくいといいうことはないです」と言ってくれた。
まぁ、面と向かって「席を外してください」とは言えないのが本音だろう。
それをわかって言ってるのだから、僕もずるい。
「じゃぁ、同じ時間でお願いします」
「わかりました。ありがとうございます」
丁寧に頭を下げてくれ、「次回の訪問については、後日メールさせていただきます」と言ってくれた。
「はい。わかりました。お疲れ様でした」
「ありがとうございました。失礼いたします」
熊谷さんは、優しい笑顔を残し帰っていった。
僕は、しばらく熊谷さんが出て行ったドアを見つめていた。
すると、ドアがノックされたので返事をした。
「せんせ~入りますね~」
原さんだ。絶対に何か言われる。
緩みきった気持ちを一瞬にして引き締めた。
「どうぞ」
ドアから少し覗かせた顔は、にやけていた。
もう僕は隠れることはできない。
「せんせ~、熊谷さんとの時間はどうでしたか?その顔だと楽しかったようですね」
えっ、僕は今どんな顔をしているんだ?引き締めたはずだが?
「せんせ~、動揺しすぎですよ」
・・・・・・かまをかけられたのか。
「いや・・・」
もう、答えようがない。
何を言っても手遅れだろう。
「熊谷さん、甘いものお嫌いじゃなかったですか?」
「甘い物は好きみたいですよ」
「よかったですね!先生と同じじゃないですか!」
原さんは、ティーカップを片付けながら嬉しそうにしていた。
何がいいのだ?と聞きたかったが、聞けなかった。
僕が何も答えないのを見て、「フフッ」と意味ありげに笑い、「先生、午後診もよろしくお願いします」と言いながら部屋を出た。