最初で最後の、恋だった。
あたしは溜息をバレないようにつき、お弁当を流し台へ置き、水を流す。
…水の音で聞こえなかったんだ。
お兄ちゃんが、後ろに迫っていたことを。
「…おい」
「!?」
振り向いた瞬間。
バシッ
あたしは頬を殴られた。
「…チッ」
頬を殴ったことへの舌打ちだろう。
お兄ちゃんは決して、見えるところは殴らないから。
「お兄ちゃん…」
「…うるせぇ。話すな」
あたしは謝るのを止め、ただ俯いた。
三ノ矢琉威(りゅうい)。
あたしの大学生のお兄ちゃん。
学校では、あたしと違いモテるから、人気者。
でも家ではこうして…暴力を振るう。
でも、あたしは耐えなくちゃいけない。
お兄ちゃんがいなくちゃ…あたしは1人だから。