最初で最後の、恋だった。
「あの時望愛の言った言葉と笑顔に、俺は救われたんだ。
…死ぬの、やめようって思った。
望愛っていう、大事な友達が出来たんだから」
それからあたしたちは、お兄ちゃんが迎えに来るまで、沢山話した。
『あたしね、せいじょマリアになりたいの』
『せいじょマリア?』
『うん。
パパがね、ママに言うの。
ママはボクのマリアだよって』
『もしかして、聖母マリアのことかな?』
『ううん。
せいぼじゃなくて、せいじょ。
聖女マリアだよ』
『聖女…?』
『うん。
意味はね、よくわからないけど、きっと清らかで美しい、女の人のことを言うんだよ。
あたしもね、ママみたいな聖女(マリア)になりたい』
『…望愛ちゃんになら、きっとなれるよ。
僕が保証する』
『ありがと!』
『望愛』
『あ、お兄ちゃんだー!
じゃあね!』
「綺麗な黒髪を靡かせながら、望愛は屋上から出て行った。
その後俺も病院へ戻った。
その瞬間、発作が来て…きっと、望愛と話すために、収まってくれていたのかなって思えたんだ」
輝飛の見せる、寂しそうな笑み―――。
あの笑み、あの時に見たんだ。
あの頃から10年も経ったから、輝飛もあたしも、変わった。
でも男の子の見せたあの寂しそうな表情は、変わっていなかった…。