最初で最後の、恋だった。
先輩が見えなくなるまで見送り、あたしは扉を閉めた。
そして生徒手帳を、胸元で抱きしめた。
輝飛先輩のぬくもりが、まだ残っている。
校内でした、あの爽やかなにおいも。
…先輩……。
「誰?」
お兄ちゃんの声で、一気に気分が下がる。
「学校の先輩…。
生徒手帳、拾って、届けてくれたの…」
「ふぅん…。
生徒手帳落としたのか。
相変わらず馬鹿な奴だな。
…お仕置きが必要だな……」
「あ、待ってお兄ちゃん!
もうすぐ時間じゃない!?」
イケメンのお兄ちゃんは、学校に内緒で、ホストクラブでバイトをしている。
「…確かにそうだな。
もう準備しねぇと、間に合わねぇや。
…でもその前に」
右手を握ったお兄ちゃんは、その拳で、あたしのお腹を殴った。
あたしは痛みに負け、生徒手帳を握りしめたまま、倒れた。
「オレのこと呼ぶなって、何度言ったらわかるんだよクソが。
てめぇなんて、虫以下のゴミだな。
…あぁ、お前とゴミを一緒にしたら、ゴミに失礼か」
あたし…ゴミ以下なんだ。
お兄ちゃんがバイトに出掛けたのを見計らい、あたしは思う存分泣いた。
生徒手帳を握りしめ、輝飛先輩の笑顔を思い出しながら……。