最初で最後の、恋だった。
暫く泣いていると、痛みも引いてきた。
そして、同時にお腹も空いた気がする。
あたしは立ち上がり、台所へ向かった。
台所の流し台には、洗っていないお弁当箱。
洗おうと思ったら殴られたんだっけ…?
あたしはお弁当箱を洗い、乾かす。
そして軽い夕食を取った。
お兄ちゃんはバイトの日は酔っぱらって帰ってくる。
未成年だけど、バイト柄お酒は必須だから。
バイトの次の日は、お酒のせいで更に機嫌が悪い。
酷い時は朝から殴られるので、明日は早く学校出ないと。
家から学校までは歩くから、殴られ蹴られた足で行くのはキツい。
急いでお風呂場へ駆け込み、サッサと上がる。
湯船につかった時、殴られ蹴られた跡が痛々しく残っていた。
予想通り痣になっていた。
でも全て、制服やソックスで隠せる場所ばかり。
世間にバレるのが…怖いんだろうな。
親戚はいるけど、親戚はあたしたちを嫌う。
両親は許されない恋愛をし、駆け落ち同然で結婚して。
まだ両親の結婚を許していない親戚たちは、あたしたちも同時に嫌っている。
お金は両親が残した保険金があるから。
その上お兄ちゃんは売れっ子ホストだから。
かなりお給料も良いみたい。
…お兄ちゃん、外面良いから……。
前にお兄ちゃんのホスト仲間が、家に来たことがある。
あたしはお兄ちゃんに言われ、部屋にいた。
そうしたら、お兄ちゃんと親しいホストが、挨拶に来てくれた。
あたしは簡単に挨拶をした。
ホスト仲間は、「可愛い妹さんだな」と褒めてくれた。
お兄ちゃんも「自慢の妹なんです」って、嘘の笑顔であたしを褒めた。
あたしはお兄ちゃんが見せる笑顔が嘘か本物か、見分けられる。
ホスト仲間に見せていたのは、嘘の笑顔。
その後お兄ちゃんはあたしを殴り蹴りながら言った。
「いつまでも居やがって…」
お兄ちゃんは外で、“笑顔の仮面”を被っているようだった。