最初で最後の、恋だった。
お昼休み。
あたしは静かに音を立てず鞄を持ち、教室を出た。
幽霊と言われているあたし。
あたしの影は薄い。
誰にもバレずに教室を出ることなど、余裕だった。
俯きがちに廊下を進み、誰も後をついてきていないことを確認し、あたしは屋上へ向かった。
屋上は普段鍵がかかっているため、誰も立ち寄らない。
…だから、開いていないはずだった。
ガチャ…
静かにノブがまわった。
あたしは静かに、扉を開ける。
屋上へは当たり前だけど、初めて来た。
開けた途端、気持ちいい風が吹いてきた。
あたしの黒髪が風で靡く。
長い前髪のせいで見えにくい視界が開け、久しぶりに何も遮断されない景色を見た気がする。
「望愛ちゃん」
よく通る低く、綺麗な声。
あたしは心臓をドキドキ言わせながら、振り向いた。