最初で最後の、恋だった。
「なぁ望愛ちゃん」
「何ですか先輩」
「…どうしたの、この傷」
サラリ…と私の前髪を分け、先輩はあたしのおでこに触れる。
「…ッ」
おでこにあるのは、小さな瘡蓋(かさぶた)。
この間、お弁当のおかずの本をリビングで眺めていたのがいけなかった。
お兄ちゃんが帰ってきてしまったのだ。
バイトだと思っていた私は驚き、急いで本を抱きしめる。
先輩のために買った本。
お兄ちゃんに汚されるわけにはいかなかった。
あたしのの警戒心剥きだしの表情が気に入らなかったのか、お兄ちゃんはあたしを殴った。
殴ったのはいつも通り、バレないお腹だけど、勢いが強すぎて、あたしはバランスを崩した。
いつもは耐えられるんだけど、自分の体より本を守りたかったから…。
バランスを崩したあたしは、運悪くテーブルの角におでこをぶつけた。
血が少量出て、お兄ちゃんは焦ったみたい。
あたしを置いて、家を飛び出していった。
止血を早めにしたから、本は無事だったけど、瘡蓋が出来てしまった。
「これは…えと…その……」
必死に考えをフル回転させ、言い訳を思いつく。
先輩にバレるわけには、いかないから……。