最初で最後の、恋だった。
「あー…。
仕事が忙しいから、帰って来ていないね」
「寂しくないんですか?」
「んー…もう慣れた」
慣れた、か…。
それほど帰ってこないのかな…?
「この家には、今誰がいるんですか?」
「俺と望愛ちゃんだけだね」
時計を見ながら、先輩は言った。
今の時刻は、10時をまわったところだ。
「あのメイドさんは?」
「メイド?
あぁ…あの人ね。
あの人は住み込みじゃないから、8時には帰るよ」
「じゃあ、8時を過ぎたら、先輩は毎日1人なんですか?」
「ん?そうだよ」
初めて知った…先輩の家庭事情。
先輩が大きな家に住んでいるとは噂で聞いたことあったけど、先輩の家族のことなど聞いたことがなかった。
それなのにまさか…こんな複雑な家庭事情だなんて。
「望愛ちゃん…何で泣いているの?」
「へっ…」
あたしは気が付いたら泣いていた。
先輩は、長い指であたしの涙を拭った。