どうしてもママ、子供のまま。


「今日学校休む?」


『んー。もうこんな時間なっちゃったから休む』


「リョーカイ。んじゃ、俺電話しとくか
ら朝ごはん作ってー」




お互いベッドから出て、それぞれの支度をする。
佑は、いつもの部屋着のスウェットを着てから、片手でスマホを操作したかと思うと耳に当てて話し始めた。
私も隣の衣装部屋に行って、いつもの部屋着をタンスから引き抜く。

今日の朝ごはんは何にしようかな…
時刻は11時半。
もう、食をとるのに「朝ごはん」と呼べる時間ではなくなっていた。





「おれ、カレーがいいー」


メニューに悩んでいると、学校と電話を終えた佑が大声で言った。

え?朝から?っては思ったけど…まぁいいか。
ということで私はキッチンにつく。



昨日の、こねたひき肉を入れたボウルは、しっかりラップで覆ってあった。
佑………ありがと。
何から何まで、迷惑かけてるなぁ。
私が居ないその影で、色々支えててくれてるんだ。
そう思うと、なんだか笑えた。



すると。

「なに笑ってんだよ気持ちわりー」




…と、私の後ろにある冷蔵庫からぶどうジュースを取り出す佑に言われてしまった。


ごめんとだけ言って、私は作業再開。
昨日の思い出がギチリと詰まったたまねぎをとる。

…私はこのたまねぎのせいで痴漢に…なーんてたまねぎにブツブツ言ってたら、たまねぎのエキスが見事目に沁みた。


たまねぎ沁みるー!なんて、たまねぎを切った手で目を覆ったらもっとひどいことになったり。

少しの大苦戦…だった。けど、しっかりそのサイズに切った。


まぁ……このたまねぎのおかげで、昨日はもっと佑と愛せたって言うのも…あるし。



そんなこと思ってたら、無意識に口にしてしまった言葉。




『たまねぎありがと…』





わ、私、たまねぎなんかに何言ってんのって思ったとき。
後ろでコップが割れる音がした。




『えっ』


びっくりして振り返ると、どうやら、飲み終えたぶどうジュースを冷蔵庫に戻そうとしていた佑のものだった。




『なんだっ、ビックリさせないでよ』


私は自分の胸をさすった。
すると…



「ビックリさせてんのは朱美だろーが!たまねぎと会話とか…次元大丈夫か?」




目を大きく見開いて、少し笑いながら話す佑。
はぁはぁ、すいませんねぇ。




『わたしも無意識だったの、自分でもびっくりしちゃった』

「コップ、割っちゃったよー」

『ちゃんと片付けてね?』

「踏んでみ?」

『馬鹿!何言ってんの!』

「ハハッ、冗談だっつーの」





私がハンバーグをつくる後ろで、佑がコップの破片を片付ける。
踏んでみ、なんて冗談のすぎること言ってくるけど、本当に冗談って事分かってる。
ハンバーグを焼いているあいだ、私はにんじんをお花型にカットした。


包丁の先を……上手に使って。
こういう作業、すごく楽しい!よね。





「すげぇ…」


にんじんをお花型に切っていると、隣で佑がつぶやいた。
手には、ケチャップを握っている。




「おれ…おまえが彼女でよかったわ」

『いっ…いきなり何言ってんの!?』

「いやいや、ガチでさ」

『ガチも何もありません!早くコップ片付けて!ハンバーグもう完成するよっ』






急なことばに小っ恥ずかしくなった私は、佑にちょぴっと、喝を入れた。
佑は、へいへい、とだけ言うと、また後ろでコップの破片を片付け始めた。





ハンバーグも食べ頃に焼けて、ソースも出来たし…後は盛り付けて完成。

食器棚から大きめのお皿を出して、ハンバーグを置く。
その隣や上やらに、野菜とか、さっきのにんじんとか。
終わりに、特製ソースをかけて。




『よし!出来たっ!』

「おー」




振り返ると、おいしそうに、盛り付けたハンバーグを眺める佑。



『片付けた?なら、食べよっ』


「うん、片付けたんだけどさ…」


『けど?』





疑問系で返すと、佑は右手を差し出した。
その右手をみると、ところどころから赤い…赤い…



『血!?』




切っちゃったの!?
やばい、結構出てるっ!
止血しなきゃ!!!




慌てた私だけど、冷静に判断して佑に言った。


『えっと…あ、ちょっと我慢してね!』



そう言って、佑の右手を引っ張る。
血の出てる指を、思いっきり口に突っ込んだ。


すると…口に広がる……ケチャップ?!






『!?』



私は困惑のあまり、佑の手を口に突っ込んだままリアクションをとった。
目の前の佑は大爆笑。




「バーカ。これ、ケチャップ」

『なんだよー!』



騙さないでよ、と、私は佑の肩を叩いた。
佑が、キッチンの水道で手を洗っている間に、お箸やらスープやら、メインのハンバーグやらを卓上に並べる。

その香りに誘われるかのように、手を濡らした佑がいつもの位置に座った。





「今日はうまそうだな」


『いっつも下手で申し訳ありませんねぇ』




馬鹿にしてくる佑を罵って、私もテーブルのいつもの位置に。
佑と、向かい合って食べる。





目の前では、私がさっきまで作っていたハンバーグが、おいしそうに湯気と匂いを放っていた。


私たちは手を合わせて、大きな声で言った。




「『いただきますっ』」






私食べるより先に、佑は箸を構えてハンバーグをちぎった。
なんだかんだ言って、私の料理を美味しそうに食べてくれる佑。


そのガッツく顔を見て、私はなんだか嬉しくなった。












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