どうしてもママ、子供のまま。


『ほら、もう出るよー』


「えっ、おれまだ歯磨いてねーし!」




玄関で、ローファーを履きながら、リビングに向かって叫ぶ。
遠くの洗面所で、ネクタイを結ぶ佑の声が聞こえた。

第二ボタンまでガラガラに開けたブレザー姿。
嫌いだけど、佑が着ると…なんだか好き。





佑の支度が終わって、佑が私の居る玄関まで走ってくる。
佑が肩にかけるスクバには、私と同じくまの人形。
ペアってか………オソロってヤツ。




『またあの遊園地行きたいな…』


靴にかかとをしまう佑の背中に向かって、ぽそっとつぶやいてみる。
靴を履き終えて顔を見上げた佑は、あからさまに答えた。



「行くか。遊園地」





それだけ言って私に背を向けて玄関を開けた佑。
続いて私もついていく。



『え!?いいの?!』

「うん。今週バイト休みだし、明日給料入るし。今月めっちゃシフトいれといたんだよね」

『だから今まで帰り遅かったのか…』



ここ最近、一緒に帰る回数が減ってきたのが事実ではあった。
一緒に住んでからは頻度に帰る回数も増えたけど、それでも夜出て行った時があったから。




「うん。てことで行くか?今週」

『うん!いきたい!』




珍しく佑が乗り気だった。
すこし違和感的なのはあったけど…それ以上に嬉しかったから気にしてなかった。



こう考えると…思い出すなぁ。
1年前、付き合って1ヶ月目の記念日、私たちは他県の大きな遊園地に出かけた。
その時の思い出はずっと忘れないし、忘れられない。
観覧車での…初キスとか…。

とにかく初めてはすべてマンガチックで…それも全部佑とだった。



それに……







『日曜日、遊園地だよね?』

「そうだけど?」

『なんの日か…覚えてる?』

「?」




………ちぇ。
忘れてるのかぁ。

今週の日曜日は…8ヶ月の記念日なのに。
あと2日…楽しみだなぁ。



満員に詰められた電車で、ウトウト眠る佑を横に、そんなことを考えていた。


< 13 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop