どうしてもママ、子供のまま。


『結局佑歯磨かないで出てきちゃってさ』


「えーバカじゃん!チュー出来ないっ」


『え?愛菜、佑とチューするの?』


「い、あぁ…もしアタシが朱美だったらの話だって!」


『なぁんだ、ビックリしたぁ』


「全く。このバカップルが!」





ここは屋上へ向かう階段。
四時間目まで授業を終えて、私たちは各自昼食につく。


あれから佑とは、学校の昇降口でバイバイした。
今は、屋上手前の階段で、ともだちの愛菜と絵理と、今朝の佑のことについて話していた。





「いいわね、わたしなんて彼氏ともう一ヶ月もあってない…」

ポソリと辛そうに絵理がつぶやく。
絵理は、付き合って3年の彼氏がいる。
黒髪ロングに、毛先だけ色素を抜いた茶色い髪がなんだか清楚感を醸し出していた。
165センチの高めの身長に、校則を破らない程度の薄いメイクに、色気のあるリップ。
豊富な胸を生かした制服の着こなし方は、いかにも「いける女」を演出している。
…けど、中身はとても照れ屋な女の子。
なーんてことは、絵理自身が一番自覚してるだろうけど。





「え!一ヶ月も会ってないの!?そんな会わなかったらアタシなら死んじゃう」





続いて話すのは愛菜。
私の、中学からの友達である。
愛菜にも彼氏はいるけど…最近マンネリしてきたらしい。
確か…1年だったかな?
結構長いカップルだったはず。

愛菜は、誰が見ても可愛いスモール美女。
絵理とは全く正反対の、身長148センチの小さすぎる背丈に、くるくるに巻いた茶髪を、高めのツインで二つに結ってある。
結い目には、ピンクのゴム。
カーディガンも、ピンク。


派手顏だから、結構モテる。
だから、こんなに1年も彼氏と続くなんて、愛菜とずっと一緒にいた私でも少し驚いている。







私たちは各自持ってきた弁当を膝に置いて、箸をそろえる。
食べる場所は決まってココ、階段。

本当は屋上でお昼、なんて夢見て高校生を迎えた私だけど、私の通う高校は、まさかの屋上立ち入り禁止。


だから…せめての、もがきで。
屋上手前の階段で、私たちは昼食をとる。






「でさー、昨日彼氏とさ」

ボヤーッとしてたら、愛菜がご飯を食べながら話し始めた。



私も相槌をとりながら、持ってきたお弁当のふたを開ける。
お弁当を見ると……



『!』


「どうした朱美……って、え!」



続いてリアクションをとるのは、絵理。






何に驚いているかというと…


「げ!朱美どうしたの!?そのお弁当」



最後の最後にリアクションをとったのは愛菜だった。
だって…だって…


お弁当の料理が、全部まるまる焦げてるんだから。
フチには…コゲがついてるし…



「朱美…朝なんかあったの?」

驚いて絵理が私に問いかけてくる。
私は首を横に振った。


これ…朝、佑が作ってくれたやつだ…
朝早く起きて、火傷しながら葛藤して作ってくれたおかず。



私は戸惑うことなく、その黒い物体を口に入れた。
もう、味はなんだかわからない。
素材もなんだかわからない。
わからない……けど…



『うぅ……美味しいよお…』




佑…味しないけど…美味しいよ。
頑張って作ってくれたんだよね。ありがとう。おいしい。
なんだか涙が出る。



「彼氏の最愛弁当か」

「いいわね」


絵理も愛菜が、私の涙を拭きながら妬ましく羨んでくれた。
帰ったら、お礼言わなきゃ。
私はいつもより倍早く、二人より先にお弁当を食べ終えた。





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