どうしてもママ、子供のまま。
遊園地デート。
「つぁー!まじでごめんって!」
『怒ってないから』
「いやいや!余裕で怒ってんじゃん!」
『怒ってないってば!』
朝から、私と佑は言い合っていた。
なんでかって…?
お弁当のおかずが丸焦げだったことに怒ってるのではない。
私が居ない影で絵理と愛菜が話していたことに怒っているわけでもない。
愛菜が急にゴムなしでヤったなんていう衝撃告白したことに怒っているわけでもなく。
「しょーがねぇじゃん!急にシフト入って、空いてるのが一ヶ月後の今日だけだったんだよ!ごめんって!」
………そう。
今日は、あれから一ヶ月もたった、9ヶ月記念日。
一ヶ月も…待たされたのだ。
そして今日はその日。遊園地デートの日。
よく私あんなに耐えられたなぁ。
この一ヶ月、佑のお弁当も作らなければ、佑のバイトの帰りも待たず、一緒の寝室にも寝なかった。
単に…すねてただけだけどね。
『まぁいーやっ。早く行こ。私ポップコーン食べたい』
佑の腕を引いて、遊園地内エリアの奥のポップコーン屋さんを指差す。
「せっかくきたのに乗らずに食うのかよ。太んぞ」
『うるさい』
ポップコーンのお店は、チョコと塩とイチゴ、キャラメルの4つだけ。
私は根っからキャラメル目当て。
ポップコーンのお店は、何百人も並ぶお客さんでいっぱいだった。
「なぁ、今のうちにアトラクション乗らね?」
『嫌!たべるの!』
「んじゃあさ、ちょっと並んでてくんね?俺ジュース買ってくるから」
『うん…』
列の最後尾。
佑は私を残して、遠くの観覧車の近くの自動販売機にジュースを買いに行った。
あー、一人になっちゃったなぁ。
佑、なんのジュース買ってくるんだろ。
多分………ぶどうジュースだろーな。
『っ!』
えっ…………?
ん、え、…なんか………お腹痛い…
痛い…痛い…っ
『んぅっ!』
…まって……落ち着け。
私…なんか悪いもの食べたっけ?
激痛のあまり、背中の汗が垂れるのがわかった。
心を落ち着かせようとするも、さらにお腹の痛みは増す。
『ふぐぅ…っ!』
私の後ろには、すでに何人かのお客さんが列を作っていた。
こんな公衆の面前で…って思ったけど、痛みには勝てず、その場にうずくまる。
すぐ後ろで並んでいたカップルの優しそうな彼女さんが、私を気にして声をかけてくれた。
「あの…大丈夫ですか?」
『…っ、う…』
私は激痛で返事もできない。
〝……すいません…心配してもらってるのにこんな…
それより救急車…呼んでください……″
なんて言葉も、激痛が遮って言葉にできない。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
あぁ…どうしよう………意識が…
「だっ…ちょ!大丈夫ですか!?すいません!すいません!誰か救急車!あなた!救急車呼んで!」
さっきの優しそうな顔をしていた彼女さんが、顔面蒼白にして私に問いかける。
そして、隣にいた彼氏さんに救急車を要求していた。
……佑、早く戻ってきて。
私を囲む見たことのない顔が、だんだんぼやけていく。
そのまま、私は目を閉じてしまった。