どうしてもママ、子供のまま。
『妊…娠……?』
「えぇ、受け難いでしょうけど。あなたのお腹には、新しい命が宿っているわ」
妊娠………?
「あなたの旦那さん?彼氏さん?とは、何年の付き合いなの?」
『まっ……まだ…9ヶ月…です』
そう言うと、堺先生は頭を抱えた。
「辛いでしょうけど…あなた、まだ彼氏さんに妊娠したことは言わないほうがいいわ。まだ9ヶ月だもの、信頼と協力が成り立ってない。それに…コンドームをせずにエッチしちゃう彼氏さんも…なんだか信じ難いわ」
眼鏡をカチャカチャ直しながら話す堺先生。
待ってよ…妊娠…?
『あの…』
「ん?」
『誰との…子ですか?』
妊娠。
それは素直に嬉しい…のかもしれないけど、一つ気がかりなことがあった。
それは…あの痴漢魔との子だったら…ってこと。
佑との子なら…嬉しいけど…
「え!?あなた、旦那さん以外の人ともエッチしたの!?」
『…違うんです……あの、痴漢…』
「そんなの信じられるわけないでしょう。ちなみに、出産前のDNA検査は基本病院ではやってないの、ごめんなさいね」
『そこを!そこをっ…そこをなんとか…信じてくれなくたっていいんです…でも、その、この子が誰との子かだけ……教えて!教えてください!先生!』
私はいつのまにか涙が止まらなくなっていた。
お腹をさすりながら、堺先生に叫びかける。
ボールペンを頭に、呻きながら悩む堺先生。
申し訳ない気持ちと混じる、〝助けて″という気持ち。
堺先生…
「ん。わかったわ。でも出産前のDNA検査は最低9週間しないと無理よ。だから…あと2ヶ月くらい…我慢して」
急に立ち込む私を、周りにいた看護師さんがとめた。
「ごめんなさいね。私もあなたに協力するわ。辛いでしょうけど…妊娠のことは誰にも言わないようにね」
机に向かって何か話しながら、堺先生は言った。
え…どうしよう。
このこと、佑にも言えないの…?
一人で抱えていかなきゃいけないの…?
いやだよ…佑。
そのとき。
ーーーーーーーバン!
私が居た病室のドアが、勢いよく開いた。
「一部始終聞いてました!おれが朱美…櫻井朱美の彼氏です!荻村佑です!おれ、おれ、高校やめます!働きます!そして…こいつと子供を支えます!」
口早に大胆なことを言ったのは…わたしの大好きな彼氏だった。
「あら…朱美ちゃん。旦那さんがお迎えよ」
呆れた顔で、少し意地悪な顔で、堺先生は私に言った。
佑が、私のいるベットに近づいてくる。
佑はしゃがんで、私の頭をポンポンと撫でた。
「よく頑張ったな。つらいとき、そばにいれなくてごめんな?」
優しい声で、佑は私に話しかけた。
そのあと、佑の視線は下に移った。
………私の、お腹だった。
佑は、私のお腹に向かって言った。
「おれ、佑って言うんだ。佑。おれがお前のパパだよ、おれ、頑張るから」
………涙があふれた。
やっぱり私、あなた以上はいません。
あなたしか…好きになれない。
この子が誰であれ、私の子供。
それを受け入れてくれる大きな佑の心の器が、とてもあったかくて、嬉しかった。