どうしてもママ、子供のまま。
歩み
『ねぇ…佑』
「ん?」
病院の帰り道。
タクシー代払ってあげるから車で帰れ、なんてガミガミ言っていた堺先生を無視して、私たちは歩いて帰った。
暗い夜道。
寂しくないのは、あなたと居るから。
『私ね…この子を守るの。命がけでも、この子を守る』
「朱美…」
私は、まだ膨れてもいないお腹をさすりながら話した。
この、限りなく小さな命。
私のお腹の中で…懸命に生きようとしてる。
私、この子を守りたいと思った。
親心、なんて言うにはまだ早すぎるかもしれないけど、そんな気持ち。
この命のために私の命をかけて守りたい、という、綺麗事でも嘘でもない本心。
「おまえは、いいママに恵まれたなー」
私の顔を見ながら、私のお腹に手をあてて話す佑。
これからのことは、まだなにも決めていない。
…けど……
「おれも、朱美と子供を、命がけで守るから」
暗い夜道のど真ん中。
私たちは命を懸けて約束した。
〝この子と、あなたを守る″と。
それはまぎれもない本心だった。
私も佑も一致した、初めての想い。
〝始めて″だらけで、何もわからない。
持っているのは、〝無力″だけ。
けど、ここからが始まりだ。
わたしたちはめげない。
暗い暗い、暗ーい夜道。
私の右手と、佑の左手。
お家に着いたら、コーヒーでも飲みながら、これからのことについて話そうよ。
固く手をつないで、私たちは家路についた。