どうしてもママ、子供のまま。
帰りみち
キーンコーンカーンコーン。
「はいじゃあ今日はここまで。起立」
黒縁メガネの偉そうな担任が号令をあげると、クラスのみんなはだるそうに立ち上がった。
「さようなら」
先生の後に続くみんなの声。
号令を終えて先生が教室から出た瞬間、クラスのみんなは騒ぎ出した。
「おっしゃー!やっと一週間終わったー」
「ねーこれから空いてる?マック行かない?あたしクーポン持ってるぅ」
「つーか昨日のテレビでさ!」
ところどころから、個々の会話が多々聞こえてくる。
私は机に向かって一人、スクールバックに荷物をまとめていた。
最後のひとつ、体操着のズボンを無理やりバックに押し込んでやる。
無理やり引っ張ってやっとしまったバックのファスナーを見て、私は一つため息が出た。
クラスの人数も減り、だんだんと話し声も小さくなる。
私に手を振って帰っていく友達の背中を残像に、私は真上の天井を見上げた。
その瞬間、目に映った見覚えのある顔。
「よっ!」
『わあ!…なんだぁ、驚かせないでよ、佑……』
目の前にいるのは、桐谷佑(きりたに ゆう)。
そう、私のだいすきな彼氏である。
「ごっめーん。だって朱美準備遅えんだもん。ほれ、帰ろうぜ」
『う、うん。ごめんっ』
「いいっつーの」
佑とはかれこれ、もう7ヶ月の付き合いである。
初めて高校一年生で同じクラスになって、知ってって…好きになった。
今まで味わったことのない感じの気持ちで。
なんか…言葉にしにくい、というか。
そんなこんなで告白したら、「ちょっと待って」って言われて。
あの時は完全ふられたと思ったなぁ。
ショボショボしながら帰ってた下校中、後ろから叫びながら走ってきたのが佑だったの。
『ちょっ、佑くん!どうしたの…?』
「どっ…どうしたのってお前、ついさっきまでのことも忘れたのか?」
『え、あっ……告白…のこと…?』
「うん、アレね。オッケーだよ」
それから私たちのカップル生活はスタート。
色々あったけど、ここまでやって来れたんだ。
そして三日後には、8ヶ月記念日も控えている。
佑はこうしていつも私の帰りを待ってくれる。
…っていっても、待たせるのも数分だけどね。
同じ学年だけど、クラスが違うから、あんまりお話はできない。
だからこうして一緒に居れる登下校の時とかはすごく大事。
「なにボケーっとしてんだよ」
『…え?』
唐突に、佑が私に話しかけてきた。
急な質問に、少し躊躇してしまう癖のある私。
直さなきゃなぁ。
『いや…ちょっとね……告白した日のこと、考えてたの』
「は?なんで急に?」
いつも口角のあがっている顔が、もっと顔をシワシワにして笑って言った。
その顔を見て、私はいつも和んでいる。且つ、……惚れ増していく。
『いや…あのね、変な意味はないんだけどさ…クラスも違うし、一緒に入れないし、その、ね、寂しい…よね』
「そーか?おれそんな寂しくねーよ?」
『えっ、なんで?』
くすくすと笑いながら話す佑。
寂しくないの?
なんだか少ーし悔しい気分になった。
「いや、だっておれら、おとといから同居してんじゃん」
ブフフ、とついには吹いた私の彼氏、佑。
『え?』
私……あれ?
頭が困惑してなんだか分からなくなる。
この人は何言ってるんだろ?
ぐちゃぐちゃになる頭を無理やり整理して、とりあえず昨日の記憶を蘇らせる。
………昨日は一緒に帰って…一回お家に帰って……ヘアアイロンを取りに行ったんだよね…うん、そこまでは覚えてる。
それから……お母さんにメロンパンをもらって…食べながら佑の家に行って………佑の用事が済んでから…
どっかのアパートに向かって…………わたしのバックから鍵を探して………
あー!!!!!!!!!!
思い出した!!
読者の皆さん、申し遅れました…
そうです。
私、昨日から佑と、同居……してるんです。
波乱の…同居生活………です。