どうしてもママ、子供のまま。
「で、何言われたの?怒られたりしなかった?大丈夫?」
「あの社長たまに人変わるものね。怒らせないほうがいいわよ。…って、怒らせるようなことしてないか」
『あ…あはぁ……』
社長室を出て、コールセンター室に入るなり、周りの社員に顔を囲まれる。
コールセンター室なのに、なぜかあまり電話のコールは鳴っていなかった。
「それにしても暇ねぇ」
隣にいたこのみさんが、ポソリと呟いた。
形のいい唇を、インスタントのコーヒーのカップにくちづけるこのみさん。
見るに堪えない妖艶さ…きれいだなぁ。
隣から漂うコーヒーのにおいを遮るように、私はこのみさんに質問をする。
『あの…このみさん』
「ん?」
『意外と…コールセンターって静かなんですね』
「あぁ…コールセンターってね…」
持っていたコーヒーカップをおいて、このみさんは渋々語り始めた。
「コールセンターって、あくまでもその会社のクレームとか、要望を受ける担当であってね。それにここのコールセンターは、離社担当だから。その担当する会社の経営が悪ければ、クレームだって来ないのよ」
なんとなく、言っていることはわかった。
私が入ったこのコールセンターでは、離社との契約で、お客さんの要望やらなにやらを受けているらしい。
だから、もしこの会社と契約した会社の儲けが悪ければ、要望はもちろん、クレームの一本さえ来ない、という話だ。
欲深くなった私は、こんなことも口走る。
『対応する数が減っても、収入は同じなんですかね?』
「あら。見た目からは想像もつかない疑問ね」
クスス、と口に手を添えて笑いながら、このみさんは続いた。
「それはもちろん、コールセンターが電話で賑わってるにもかかわらず、応答しない、とかだったらみんなよりは低いわよ」
『へえ…』
「でも、今日みたいな日は別。電話自体がこないんだもん。例えばこんな日が一ヶ月続いても…」
『…続いても?』
「そうねえ……」
私に寄って、私の耳に手を添えてこのみさんは話した。
「最低25万はもらえる」
私は目ん玉が飛び出しそうだった。
そんなもらえるの?
ここの社長、胃袋大きいんだぁ。
『ここの会社に勤めてよかったです』
「ふふ、そうね。それより、わたしお腹減っちゃった。ご飯食べましょ」
私の手を引くこのみさん。
このみさんに引かれ、私はコールセンター室をあとにした。