どうしてもママ、子供のまま。
「えー!おまえモデル応募したの?」
『うん…でも私の希望じゃな…』
「無理じゃねー?おまえ短足だし!」
『うっさいわね!黙って!』
あのあと、コールセンター室を後にして、打ち込み室的なところに戻った私。
このみさんはお腹が空いているから、とかいってご飯を食べ始めてたけど、私はイマイチで。
小腹空いたなーくらいだったから、席を外した。
そして今私は、携帯をがっちり耳に押し付けて電話をしている。
相手はもちろん…佑。
今朝のモデルの件についていったら、見ての通りからかわれまくり。
もう…短足なことくらい自分でもわかってるよ。
「でさ、朱美?」
『ん?』
「お腹の方は…大丈夫か?」
『あ…』
唐突に話題を変えた佑。
見なくてもわかるような真剣な声で、私のお腹に気を使う。
佑…
私は少し目の奥があつくなった。
『うん、今のところ全然平気だよ』
「そか、あんま無理すんなよ?」
『無理も何もしてないよー。それより今日は遅くなりそう?』
「仕事慣れてねーから…もしかしたら8時過ぎる。けど、そんときは必ず電話するから」
『うん、待ってる。んじゃあ私そろそろ、先輩たちのところ戻るね』
「おう、頑張ってな」
『佑も』
「おう」
佑の寂しげな返事を聞いて、私は通話終了ボタンを押す。
通話終了を知らせる機械音は、しばらくなり続けていた。
肩を一回りさせて、先輩たちのところへ戻る。
「あ!朱美ちゃん!おかえり!旦那と電話?羨ましいわー」
部屋に入るなり、元気のいい声が私を迎えてくれた。
私のディスクを、ポンポンと叩いて、座れの合図をおくってくるこのみさん。
部屋を出る前はおまんじゅうだったのに…今度はおにぎりを頬張っている。
意外と食べるんだなぁ…このひと。
『あの…このみさんって、お料理お好きですか?』
唐突に、こんな質問をしてみた。
このみさんは、頬につけたご飯粒の存在を忘れるほどビックリしていたが、そのあと、冷静を取り戻して話し始めた。
「うん、好きよ。一応栄養士の資格持ってるしね」
話は弾む。
『えぇ!栄養士!?じゃあ、とっても料理おいしいじゃないですか!』
照れ臭そうにこのみさんは笑う。
またまた、話は弾んでいった。
「ふふ。それほどでもないよっ。単に、お料理が好きなだけ」
『女子力高いですね』
「…でも、なんで急に?」
『いや…私、自炊始めたばっかりで…メニューとか少ないし、教えてもらえたらなぁ…なんて』
社内制服の胸元のリボンをわざとらしく直しながら、私は話した。
すると、このみさんが言った。
「あら、そうなの?なら、教えてあげるよ。今週にでも」
『え!?ほんとですか!?』
「うん!私も朱美ちゃんとお料理してみたいし」
『ありがとうございます!』
なんて優しい人なんだろう…
って、こんなわけで。
今週。
今週の、土曜日。
朝10時に、千代田区にあるこのみさんの家に集合になりました。
このみさんからたくさん伝授して、上手くなって、佑を喜ばせたい。
それが私の、心の本音だった。