どうしてもママ、子供のまま。
『あは…ははは…そうだったね、忘れてたよ』
「ん。まだ慣れねーんだろ。自炊もまだ下手くそだしな」
ポンポン、と佑は私の頭を撫でた。
…わかる。
それは、【大丈夫だよ】の合図。
私は、佑のこういうところもだいすき。
それにさ、頭ポンポンなんて、マンガチックじゃない?私幸せだわ。
しばらく、頭ポンポンの余韻に浸ってたら。
さっきの優しい撫で方とはまるで違ったチョップが、つむじめがけてくらった。
『痛っ!』
「ボーッとしてないで早く鍵開けろ」
『あぁ』
トボトボと考え込みながら歩いているうちに、もう既にお家に着いたらしい。
…シェアハウス、か。
改めてドキドキするのは私だけなのだろうか。
チラッと、隣にいる佑を見ると…
鼻くそほじってる。
だめだ、この人はもうこのシェアハウスを現状化してる。普通化してる。
くっそー。なんか悔しい。
ごちゃごちゃと重苦しいバックの中から、ピンクの鈴がついた鍵を取り出す。
(こんなの私持ってたんだっけ…)
鍵を入れて一回転させると、中でガチャッと音がした。
『あいたよ』
「あ、おう」
鼻に突っ込んでた指を一回みて、ルンルンしながら家に入っていった。
そのあとを、呆れながら私がついていく。
きっとこれからも毎日こんななんだろうな…
それが落ち着いて、なんだかホッとする私たちの恋の形。
まだ高校二年生の私たちは、恋の形だって未熟で幼い。
けど、私たちなりの形って、これからも刻んでいきたいって思う。
………って、私、重い。笑
部屋のカーテンを閉めて、テレビをつける。
チャンネルをどんなに変えても、やっているのはカウンターで手を揃えて報道するアナウンサー達ばっかり。
「ニュースばっかりかよー」
後ろにあるソファにあぐらをかいて座る佑も、ぽつりとそう呟いた。
『仕方ないよ』
「おれ、腹減ってきた」
『え、まだ作ってないよ?』
「作ってー。超腹減って死にそー」
ダルそうにニュースに目をやる佑。まだ6時にもなってないのに、お腹空いただなんて小学生か。
仕方なく私は、キッチンに向かう。
脱いでいたブレザーを脱いで、カーディガンの上からエプロンを着た。
……今日はハンバーグにしようかな。添える人参の形もお花型にしようっと。
今日の夜ご飯は私特製ハンバーグ。冷蔵庫から材料を取り出す。
解凍させたひき肉をボウルに移して、体重をかけながらこねた。
手につく脂がいちいちウザい。そんなことを考えながら手を動かす。
隣のリビングでは、テレビ画面相手に大爆笑する声が聞こえた。
ひきにく…にんじん…ブロッコリー…こしょう…
『あ!』
………やば…
たまねぎがない。
たまねぎたまねぎたまねぎたまねぎたまねぎたまねぎたまねぎたまねぎ。
唱えてもたまねぎは出てこない。
『買いにいかなきゃ…』
ひき肉で油まみれになった手に洗剤をつけて洗う。
爪の奥に入り込んだ肉をとるのはとても厄介な作業だった。
手を洗い終えて、エプロンの端で手を拭く。
リビングに向かって私は声を張った。
『ねぇ佑!私買い出し行ってくるから』
声が届いたのか、無反応のまま佑がこちらに歩いてくる。
「お、なにおれのことガン見してんだよ。まさかのー、カッコよくて見とれちゃった系?」
そういって佑は私の横をすり抜けて、うしろの冷蔵庫からぶどうジュースを取り出して飲んでいた。
……聞こえてなかったか。
『私買い出し行ってくるから』
「は?なんの?」
『たまねぎ。今日ハンバーグにしようとおもって』
「お!やったー!」
『だから行ってくるね』
「おれ行こうか?」
『いや、いい!すぐ帰る!』
ぶどうジュースを立ちながら飲む佑を後ろに、私は財布片手に家を出た。
リビングに佑が戻る。
ぶどうジュースをテーブルに置いて、テレビを目をやる。
渋そうな顔をした中年アナウンサーが、この辺の地域のニュースを報道していた。
【 先ほどここ東京都○○区で、痴漢が発生したという連絡がありました。年齢は20代後半、上下黒のジャージで、マスク姿です。まだ見つかっていないので、近所の方は十分な警戒をして下さい。何か知っている方が居れば、コチラへ連絡をお待ちしているとのことです。】
画面下に警察署の電話番号とURLが記載されてあった。
ニュースに無関心な佑は、片目で流してぶどうジュースに手をかけた。