どうしてもママ、子供のまま。
『ありがとうございました』
「頑張ってね、ちっちゃいママ」
病院を出るとき、受付にいた事務員の人に声をかけられた。
私はぺこりと頭を下げて、病院を出る。
すると、見覚えのある人が、入り口の横にいた。
『あっ…佑……』
「ん」
素っ気なく、佑は一言返事をした。
私は佑にかけよる。
寂しさを埋めるように、私は佑の腰に手を回した。
佑は何も言わない。
そっと私の手を引いて、タクシーに乗った。
無言の車内。
車のエンジン音だけが響く。
その中で私たちはずっと、ただ黙って手を握っていた。
私…怖いよ……
例えばもし、私のお腹にいる赤ちゃんが、佑、あなたとの子じゃなかったらどうする?
佑、逃げる?
佑、怒る?
佑、出てく?
もしお腹の中にいる子が私と佑の子じゃなくても、佑は受け入れてくれる?
佑……ねぇ。教えて。
なーんて聞けないよ…
首を横に振られたら、私何も言えないよ。
佑…佑…
すがるような目で、私は佑を見た。
佑は、相変わらず頬杖をついて外を見ている。
だよね…私が思うほど呑気に世界はできてない。
佑…もしあなたがこの子と私を捨てても、私はこの子を育てるよ。
誰との子であれ…わたしのお腹で生まれた子。
なんなら、命をかけるから。
窓の外に目をやる。
すると、握っていた手に、微かな強い力を感じた。
みると、佑が、私の手を固く握る。
「家帰ったら、愚痴でもなんでも聞いてやっから。そんな顔すんな」
耳元で小声で放たれた佑の優しさに、私は涙が出そうになった。