どうしてもママ、子供のまま。
…………美。
…………けみ。
「朱美!!!!!」
近くで、寄り添う大きな声がする。
記憶を取り戻して早々目を開けると、心配そうに私の顔を覗く佑が居た。
『……佑…』
「大丈夫か?にしてもお前、寝過ぎ」
クスス、と笑いながら、佑は時計を指差した。
壁に掛かってあるピンクの時計を見る。
時計の針は、夜の9時のところで止まっていた。
………買い出しに行ったのが5時半過ぎだから……えっと…私、3時間くらい寝てたの………!?
『わっ…私こんなに寝てたの!?』
「揺すっても揺すっても起きねーんだもん。死んだのかと思ったわ」
『ご…ごめん…』
辺りを見回すと、キッチンの近くにあるテーブルの上に、白いビニール袋。
あれはきっと…私が買ったたまねぎの袋だ。
私の寝るベッドの隣には、水の入ったコップと薬の殻。
誰のかな…?
「ところでおまえ、何があったんだよ?急に別れようだなんて」
頭をかきながら、なんだか遠慮気味に佑が聞いてきた。
『あっ、あれは…っ』
〝急にレイプされたんです″
…言おうと思って、やめた。
だって…私が汚れた、なんて思われたくないから。
私…
「おまえがなに言おうと、俺は離れる気ねーよ?嫌なとこあんなら言ってみ。直すからさ」
俯く私に、急に上から降ってきた佑の言葉。
あぁ…ダメだよ、今私にそんなこと言ったら。
「泣くなって、この馬鹿」
泣いてるっていう、実感はない。
だから今、佑に言われて初めて知った。
私いま、……泣いてるんだ。
確かに……ココロが痛い。
『ゔ…ゔぁ………うわぁぁああんっ』
あふれる涙と比例して、泣き声も大きくなった。
何度もなんども、涙は私の膝に落ちた。
その泣き声に混じって、あふれてしまったついちょっと前の真実。
『わた…わたしっ……ち…うぅ…痴漢に…襲われ…て…ごめっ…んっ……』
泣いてると、過呼吸になっちゃう私。
だから、自分でも何言ってるがよくわからなかった。
わからなかった。
……けど…佑には、はっきり聞こえてた。
「…おまえ、襲われたのか……?」
もう隠したくない。私はコクン、と、頭を縦に振った。
その瞬間、また視界が滲んでは頬に水が伝った。
『ごめ…ごめん…っ…ごめんなさ…っ』
今は、これしか言う言葉がなくて。
見上げた大好きな人の顔は、あまりにも垢抜けた印象だった。