恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
真琴はそこから逃げ出したくなったけれども、今の高原には誠意を示さねばならないと思って、黙って高原の言葉を待った。
だが、高原は何も言わなかった。言葉を発する代わりに早足で真琴に歩み寄り、その腕の中に抱きしめた。
真琴は息を呑んで固まってしまう。
どうして高原がこんなことをするのか…。それは、いくら恋愛に疎い真琴にもすぐに解った。
高原の想いは、まだ続いている――。
抵抗をして、この腕の中から抜け出さなければならないと思ったけれども、足元から震えが駆け上がってきて、真琴は体に力が入らなかった。
――…和彦さん…!
高原の肩に唇を押し付けられながら、真琴は心の中で古庄を呼んだ。
けれども、同じ校内にいるはずの古庄も、こんな時に限ってその姿を現してくれない。
自分だけの力でこの状況を切り抜けなければならないと思うと、いっそう怖さが募る。
「好きなんです…!」
抱きしめる腕に力を込めながら、高原がそう絞り出す。
真琴は身動きが取れなくなってしまったが、このまま高原の激情に流されるわけにはいかなかった。
「その想いには応えられないって、前に言ったと思うけど…」
心の中の動揺は押し隠して、つとめて冷静にそう答えた。