恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
こんな時は、隣同士の席が裏目に出て、息の詰まりそうな時間が恐ろしくゆっくりと過ぎていく。
真琴は仕事に没頭するふりをして、古庄と口をきくことはおろか、目さえ合わせようとはしなかった。
古庄もそんな真琴の機嫌を察知し、新聞を読んでいるふりをして、敢えて声をかけたりはしなかった。
真琴が帰り支度を始めるころ、古庄がおもむろに席を立ち、学年主任の席の隣にある電話へと向かう。
メモも見ずに番号をダイヤルし、待っている古庄の様子を、真琴は視線を向けないままで窺った。
「……あ、森園さんのお宅でしょうか?桜野丘高校の古庄です」
「森園」という名前を聞いただけで、真琴の全神経は古庄の会話に集中してしまう。
そんなさもしい自分の心を嫌だと感じてしまうけれども、真琴は聞かずにはいられなかった。
「修学旅行のことなんですが、…ええ。そうなんです。申し込みの期限はとっくに過ぎてまして…」
その話しぶりから、話しをしている相手は、佳音ではなく母親のようだ。
「佳音さんにもいろいろ事情があると思いますが、今はとりあえず申し込みだけはしておいてくれませんか?…旅行までに、佳音さんの気持ちが旅行へ前向きになるように、必ず説得しますから」