恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
修学旅行
生徒たちにとっては待ちに待った、そして古庄にとっては心配の種の修学旅行の当日を、とうとう迎えてしまった。
この日の古庄は、タクシーで佳音の家まで迎えに行き、彼女を連れて集合場所である駅へと向かった。
こうでもしないと、佳音が本当に姿を現すのかと、ヤキモキして待っていなければならないと考えたからだ。
タクシーの後部座席で隣に座る佳音が、いつの間にかぴったりとくっつき、古庄のスーツの袖をそっと握った。
それに気づいた古庄はピクリと体を硬くしたが、佳音の手を振り払うことなどせず、タクシーの窓の外から視線を移さなかった。
あれから古庄は、佳音を説得するために何度か佳音の家に赴き、やっとのことで佳音と会う機会を持てた。
「先生と、二人っきりで話がしたい…」
この親子の様子を一目見て、信頼関係は既に崩壊していると古庄は思った。
佳音のそんな要求もあって、佳音の母親は厄介事から逃れられるとばかりに姿を消し、洋服や書類で散らかったリビングのソファで二人は対面した。
あの出来事からひと月近く経とうかというのに、佳音の表情は憔悴しきっていた。
学校にも来なかった佳音は、ずっと家の中にいて、誰とも会うこともなかったのだろう。本来の美少女の面影を探しても見つけられないほど、すさんだ心を映して身なりも荒れていた。