恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜



これが正しいやり方なのかどうか、古庄には判断できなかったが、佳音に生きる意欲を持たせ、人間らしい生活をさせるためには、何かしらの希望が必要だった。


真琴との結婚を公表する三月の終わりまでには、佳音の精神状態も落ち着いて、きっとその事実を受け入れられるようになっている…と、事態が好転することを信じて楽観視した。



佳音は暗闇の中で一筋の光を見つけたように、ホッとした表情で顔を上げる。

涙が残る佳音の眼差しには、自分を恋い慕うものが漂っていたけれども、古庄はそこから目を逸らさなかった。


「俺は…、お前と一緒に修学旅行に行きたいと思っている。お前にとって一生に一回しかない経験だから…。一緒に楽しい思い出を作ろう」


もちろん、古庄は担任としての誠意からそう言ったのだが、佳音の恋する心は違う意味でその言葉を受け止め、そこに希望を見出し始める。
 
 
「……うん。先生と一緒なら、修学旅行に行きたい……」


佳音がそう言って頷いてくれると、古庄も肩の荷が下り、ホッとして息を抜いた。


それから考査を挟み、修学旅行までは、佳音は何とか順調に登校してきた。
相変わらずクラスには馴染めなかったが、それは佳音の気にするところではなかった。

佳音には、以前以上に、もう古庄しか見えていなかった。




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