恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
そんな佳音が、修学旅行当日も古庄と連れ立って、タクシーで集合場所に乗りつけたことに、真琴の心は不穏にざわめいた。
古庄の心が佳音に奪われてしまうことを恐れているよりも、佳音に振り回されている古庄のことが気がかりだった。
しかし集合時間を迎え、修学旅行が始まってしまうと、佳音のことは真琴の意識の中に入ってこなくなった。
目の前のやるべきことから少しでも意識が逸れて、ちょっとした確認なども怠ってしまうと、とんでもないことにつながりかねない。
生徒にとっては楽しい修学旅行も、引率教員にとってはそういう行事だった。
古庄があれほど心配した真琴の体調も、どうやら順調のようだ。
ようやくつわりが治まって、憑き物が落ちたように真琴の顔色も良くなり、体重も元へ戻っていた。
そもそも、この修学旅行の旅程は、今どき珍しい“スキー”がメインのものだった。
入学当時の旅行の計画を立てる段では、“海外”という話も出ていたのだが、あまり冒険や挑戦を好まない学年主任が、きわめて無難なスキーという方針を打ち出した。
生徒達の落胆を想像して、当時の真琴も古庄も、学年主任のやる気のない方針に不服だったが、今となっては逆にそれがありがたかった。