恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
石井からそう言葉をかけられていたにもかかわらず、真琴は部屋とは反対方向へと足を向けた。
ホテルの正面玄関へと駆け寄ると、自動ドアから外へと飛び出した。
一歩ホテルの外に出た瞬間、真琴の顔に冷たい雪の粒が叩き付けてきた。絶え間なく降り続く恐ろしいほどの雪が、夕闇と共に真琴を取り巻いて、前も後ろも分からなくなる。無数の雪を縦横無尽に舞い上がらせている強風は、容赦なく真琴を打ち付け、その体温を奪った。
――……和彦さん……!!
こんな中に古庄が身を置いていると思っただけで、真琴の心は苦しく締め上げられた。
古庄が帰って来ていないかと、暗がりと雪とが合い混ざる空間に目を凝らしてみるが、その視界は自分の涙で見通しが利かなくなる。
「賀川さん!!何してるの?!」
真琴を追いかけてホテルから出てきた石井が、声をかける。
「…古庄先生が、まだ外に!!」
真琴は石井の方には振り向かず、暗く雪の吹きすさぶ中に足を踏み出そうとする。
「古庄くんのことが心配なのは解るけど、コートも着ずにこんな所に出たら風邪ひくわ!早く中に入って!!」
石井は片手を顔の前にかざして雪を防ぎながら、さらに真琴を追いかけてその腕を掴んだ。