恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
我が子をこの腕に抱いた時の大きな喜びを想像して、しばし古庄は幸せな空想の中を漂う。
そのまま暖かい幸せの中に溶け込むように、意識が遠のいていこうとした時……、
――…和彦さん!!
真琴が呼んでいる声が聞こえた気がして、古庄はパッと目を見開いて覚醒した。
こんなことは今まで経験がないのでよく判らないが、このまま気を失ってしまっては、そのまま本当に死んでしまうのだろうと古庄は思った。
我が子に会わずして死んでしまうなんて絶対に嫌だし、身重の真琴を独り残して逝くわけにもいかない。
古庄は痛みを感じるほど唇を噛んで、自分を奮い立たせた。
「……真琴……」
噛みしめた口元が緩むと、衝いて出てくるのはやはり真琴の名前だった。
「真琴…、真琴…。君に会いたいよ……」
もう、古庄は佳音のことはおろか、産まれてくる我が子のことも考えられなくなった。
ただ、意識の中にあるのは真琴の存在だけで、古庄は何度も何度も真琴の名を、暗闇に向かってつぶやいた。