恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
古庄自身、生徒に携帯電話の番号を教えるのは抵抗があったが、致し方なかった。
佳音のことに関して、もう母親は当てにはならないと、古庄は諦めたからだ。
修学旅行での顛末を佳音の母親に話しても、母親は嘆きもしなければ怒りもしない…。自分の娘に対して、まるで無関心だった。
佳音の弟を亡くして、母親にとってはこの世でたった一人、血のつながった存在なのに、どうしてこんなに無関心でいられるのだろう。
逆に、たった一人の頼るべき存在にこんな風に見放されている佳音が、とても憐れでならなかった。
これで、自分まで佳音を放っておいたら、本当に佳音の心は壊れてしまう…。
そう思った古庄は、佳音が抱える自分に対する恋愛感情はとても重いものだけれども、それを含めて誠意をもって対応していこうと覚悟を決めていた。
「ただいま…」
週末ごとに訪れる真琴のアパートの部屋も、古庄にとって居心地のいい自分の居場所となりつつあった。
殺風景な自分の部屋の照明を点ける時よりも、ホッとして“帰ってきた”という気持ちになる。
「おかえりなさい。遅かったですね」
真琴が古庄を迎え入れながら、少し心配そうな顔をする。