恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
『死にたい』が狂言だとしても、佳音の精神が不安定な状態なのは紛れもない事実だ。今ここで、唯一の心の拠り所である古庄が駆けつけないと、彼女は衝動的に自分を傷つけかねない。
古庄もそうせざるを得ないことは分っていたらしく、一つ頷くと、もう一度真琴と視線を合わせた。
「君も一緒に行くか?」
こんな夜遅くに佳音の家で、彼女と二人きりになってしまうことに、古庄には抵抗と戸惑いがあった。
…それに何よりも、真琴をここに一人で残して行くことが、心配だった…。
しかし、真琴は首を横に振る。
「いいえ。今日も一緒に現れてしまうと、私たちが結婚していることを森園さんに感付かれてしまいます」
真琴の的確な判断に、古庄も真琴を見つめて頷いた。
真琴が立ち上がり、古庄の着替えを用意すると、古庄も手早くそれに着替えて出かける準備をする。
「…これも、持って行っててください」
古庄が2月の寒い夜の中に出て行く前に、真琴が玄関口で携帯電話を渡す。
古庄はそれをコートのポケットの中に入れ、真琴へと向き直った。
「森園の様子が落ち着いたらすぐに帰ってくるから、戸締りして、先に寝んでて…」
こくんと無言で頷いた真琴に、古庄は微笑みかけ、玄関のドアを開ける。