恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
「もちろん、女子生徒に想いを寄せられて、いちいちそれに応えてたら、あなたの場合。何人もの生徒と付き合わなくちゃいけなくなるわ。その内『淫行教師』なんていうことになって、首が飛んじゃうわよ」
石井は冗談交じりにそう言って笑ったが、古庄は苦い表情を少し緩めただけだった。
「森園さんの想いに応えるだけが、解決方法じゃないと思う。本当に人を好きになることはどういうことか、教えてあげることだってできるでしょ。きっとあなたには、とても愛する人がいて、それがどういうことか知ってるでしょうから」
石井のその言葉を聞いて、古庄は目の前で水風船が弾けたように、目を丸くした。
意味深な視線をよこしながら、そう言って席を立つ石井は、まるで“真実”に関する何か…を知っているかのようだ。
「また、何か困ったことがあれば手を貸すし、相談に乗るから、何でも言ってね」
しかし石井は、その視線の意味を明らかにすることなく、古庄の肩をポンポンと叩くと、足早に自分の席へと戻って行った。
とにかく、佳音のことは、このままにしておくわけにはいかない。
古庄は終礼が終わると、一旦家に帰り、自転車から自動車に乗り替えて、佳音の家へと向かった。