恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜

個別指導




勤務時間は終わっていたから、佳音の家からそのまま自分のアパートに帰っても良かったのだが、古庄は敢えて学校へと戻った。


教員と生徒たちがひしめく、放課後の賑やかな職員室の中で、自分にとってたった一つの確かなものを見つけだす。

3人ほどの女子生徒たちに囲まれて、その生徒たちから代わる代わる、大きくなりつつあるお腹を撫でられている真琴――。

雑踏の中にたたずむ古庄に気が付いて、にっこりと笑いかけてくれる。



「古庄先生。女の子たちがお待ちかねですよ」



その瞬間、古庄は満開の桜の匂いと、安堵の海の中に包み込まれる。

真琴の声を聞いて、大きなストレスに疲労して張りつめていた心が、ホッと温かく緩んでいく。


「お前たち、賀川先生の仕事の邪魔をしてたんじゃないのか?」


和んだ心を映して、古庄が優しい声を発すると、女子生徒たちの表情にもいっせいに笑顔の花が咲いた。


「だって、先生がいなかったんだもん」


「先生、どこ行ってたの?」


「……ちょっと、森園の家に行ってたんだ」


生徒たちとの会話だったが、真琴の耳にも入っていることも承知で、事実のままを告げた。

真琴はチラリと一瞬視線をよこしたが、女子生徒たちから解放されたこともあって、自分の机へと向き直って仕事を再開させた。



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