恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
個別指導を始めて3日目。
佳音の学習も軌道に乗って来て、順調に進んでいた。きちんと朝から登校して来て、授業にも真面目に取り組み、それなりに付いていっているようだ。
もともと、打てば響くように利発なところのあった佳音だ。
この調子でもうしばらくすると、古庄が付いていなくても自分で学習を進められそうな手応えを感じていた。
「それじゃあ、また明日な」
二人のほかに誰もいない教室に、古庄の声が響き渡る。その日の個別指導にも区切りをつけ、佳音が筆記具を収め始めた。
古庄も椅子から立ち上がろうとしたその時、椅子の背もたれに置かれた古庄の手を、佳音が掴んだ。
不意を衝かれて、古庄は無言で佳音を見つめ返す。
「…先生。あのね、お願いがあるの…」
佳音がためらいがちにそう口を開くと、不吉な予感が古庄の中を駆け巡った。
けれども、教師として、佳音のこの手を無下に振りほどくことはできない。心が病んでいる佳音の話は、きちんと聞いてあげなければならない…。
「…抱いてもらえるのがダメなら…。…キスして?」
とっさに思い描いていた予想が遠からず的中して、古庄の心の中には失望感が充満した。