恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
「…古庄先生。ちょっと」
教室の戸口から真琴が声をかける。
声の主が真琴だったことに、古庄の表情がパッと明るく反応した。
「ん?なに?」
これから聞かされる深刻な話にかかわらず、爽やかな笑顔を作りながら教室の外へと出てきた。
戸口の反対側、廊下の窓の方へ誘われ、内緒話になる体勢なのにも、面白そうな表情を見せる。
「…先生のクラスの森園佳音さん。彼女の弟さんが亡くなりました」
「……なんだって!!?」
古庄の面白そうな表情は、一瞬で暗いものに塗り替えられた。
「交通事故だったらしいです。森園さんをすぐに帰宅させなければならないんですけど、突然のことだから彼女もきっとかなり動揺するでしょう。ご両親のもとに送って行ってあげた方がいいと思います」
神妙な顔で真琴の言葉にうなずき、古庄は相づちを打った。
「うん、そうするよ。あっ!でも、俺、自転車で通勤してるから、車が……」
「私のを使ってください」
真琴はジャケットのポケットから、車の鍵を取り出して古庄に渡した。
「終礼も私がやっておきますから、古庄先生はすぐにでも彼女と一緒に行ってあげてください」
「…わかった」