恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
「……お邪魔します……」
佳音はそうつぶやくと、小さくお辞儀をして靴を脱いだ。
「今日は『赤魚の煮つけ』なんだけど、ちょうどよかった。和彦さん……古庄先生が、一切れじゃ足りないかなって思って、三切れ作ってたんです」
「おお!以心伝心かな?さすが俺の奥さんだ」
古庄が居間でスーツのジャケットを脱いで、それを自分でハンガーに掛けながら合いの手を打つ。
「…でも、今日は和食だから、高校生にはどうでしょう?前もって言ってくれてたら、もう少し森園さんのお口に合うものを作ったんだけど……」
「言っておこうと思ったんだけど、君はすぐに帰ってしまったし、連絡しようにも携帯電話は見当たらないし…」
「……携帯電話、そこのカーペットの上に転がってましたよ。…って、お客さんの前で着替えなんてしないでください!」
クローゼットから古庄の着替えを取り出して、それを渡しながら、真琴は古庄の背中を押して脱衣所の方へと連れて行く。
居間にあるソファに腰を下ろした佳音は、そんな様子の二人を黙って眺めた。
そのあまりの自然さに、この二人は本当に夫婦なんだと、今更ながらに実感する。
「そうだ、森園。お母さんに一応連絡しておけ、今日は飯を食べて帰るって…」