恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
「……わっ!また!!…蹴ったの、分かった?」
そう言いながら、真琴はお腹の我が子に向けるのと同じ優しい眼差しを、佳音に向けてくれる。
新しい命の懸命さに佳音は素直に感動し、真琴の慈悲深い眼差しにその心が洗われる。
夜の街で知らない男たちの車に乗ろうとしていた時、この真琴は佳音を守るために大男に掴みかかって行った。そこから家に帰る時も、何も咎めたり叱ったりすることなく、静かに佳音の手を握っていてくれた。
そんなことを思い出すと、佳音の目の奥に涙が込み上げてくる。
「――森園。お前もこうやって、お母さんのお腹の中で、大事に守られて育てられたんだ。そうして、望まれて生まれてきたんだよ」
そして、古庄のこの言葉が佳音の心に深く刻まれて、涙と感情の堰が一気に崩壊した。
突然はらはらと涙を流し始めた佳音を、古庄も真琴も何も言わず、しばらくそっと見守った。
「……でも…、お母さんは…、お母さんだけじゃないお父さんも…、今は私の存在なんて望んでない…。いなければいいって思ってる…」
絞り出された佳音のこの言葉に、真琴は悲しそうに顔を曇らせた。