恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜




「…森園さん。森園さんの寂しくて辛い気持ちは、よく解る…。世の中には、自分で産んでおきながら子どもを疎んでしまう親も確かにいるけど、森園さんのお父さんもお母さんも、そんな人じゃないと思うの。…だって、今ここにいる森園さんは、こんなに素直で賢い子だもの。きちんと育ててくれた証拠よ?」


「……でも、今は……」


佳音は、真琴の言葉を聞いても、首を横に振って受け容れようとはしなかった。


「……今は、お前の両親も、心が悲しみで病んでいるんだと思う。この真琴のお腹の中の子と同じように、お前もお前の弟もこうやって愛しんで大事にされていたはずだよ。その何ものにも代えがたい大切な子どもを亡くしたんだから……、お前の両親の悲しみはお前が感じているものよりも、ずっと深いはずだ」


真琴の言うことを補足するように、古庄は佳音に言葉をかける。

その内容は真実を衝いているのかもしれないが、佳音にはなかなか呑み込めない。俯いてポタポタとただ涙をこぼし、制服のスカートを濡らした。


「…それじゃ、弟の代わりに私が死ねばよかった…。そうすれば、こんな悲しくて寂しい思いを味わわずに済んだから…」


あまりのやるせなさに、真琴は顔を悲しそうに歪ませて、目を閉じた。




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