恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
佳音の方も、古庄が真琴にそんな行動をとっても、もう心が乱れることはなかった。ただ…まだ洗い流せない古庄への想いに、ほんの少し胸が切なく痛むだけで…。
「……いいかい?」
最後に古庄はそう言って、真琴の目を見て確認を取った。
耳元で囁かれた古庄の言葉に、真琴は顔をほんのり赤らめて、微かにぎこちなく、もう一度頷いた。
「…行ってらっしゃい。気を付けて…」
「すぐに戻るよ」
日常的な夫婦の会話を聞きながら、佳音もぺこりと頭を下げる。
そんな佳音の両手を取って、真琴がギュッと握った。
「森園さん、大丈夫だからね。今日、一つ壁を乗り越えたから、これからは今よりも旨くいくようになるからね?」
佳音は驚いたように、握られた両手に目を落とす。
真琴の手は、古庄の手と同じくらい温かかった。
目を上げると、優しく見つめてくれている真琴の瞳があった。
「それじゃ、森園。行こうか」
古庄に声をかけられて、真琴のアパートを後にする。
夜の空気はまだ身を切るように冷たかったが、佳音の手には真琴の手の温かさが残り、次第に全身に伝わってその芯まで染み透っていく。
真琴のように優しい心で、誰かのために生きていければ、古庄が真琴を想うように、愛してくれる人が自分にも現れるだろうか…。