恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
佳音の細い肩がギクリとこわばり、神妙な顔をして振り向いた。
「はい。…ぼちぼちやっています…」
と、答えてはいるが、本当は真琴のドレス作りを始めてから、個別指導はなおざりになってしまっていた。
「…ぼちぼち、だって…?」
古庄は、お説教をする教師の顔になって、怪訝そうな声をあげる。
「ぼちぼちやってたんじゃ、3年になるまでに追いつけないぞ。…放課後は何をやってるんだ?」
古庄は、“放課後”を話題にすることで、生徒たちが自分に隠していることを探る突破口を開こうと思っていた。
そんな風に問われて、佳音は窮してしまう。
何と言って答えようか迷いながら、棒立ちになって周りのクラスメートたちに視線を走らせる。
クラスメートたちも内心は焦っていた。本当のことを打ち明けられたら、あの“計画”をこれまで必死で内緒にしていた苦労が、台無しになる。
すると、機転を利かせたラグビー部の堀江が、横から口を出した。
「先生!俺、早く部活に行きたいんです!!早く終礼、してください!!」
「そうそう!私も今日塾があるから早く帰りたいの。先生、早く終礼始めてよ!」
側にいた他の女子からも、そう言われて、古庄の佳音への問いかけはうやむやになった。