恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜



古庄自身は届けを出していないので、そのまま帰るわけにはいかなかったが、真琴を捕まえて、この前ゴミ保管庫でキスしたみたいに、誰もいない物陰で抱きしめるつもりだった。



靴を履き替えて、職員の通用口から外に出る。
薄曇りの冷たい空気の中、職員の駐車場を見遣って、真琴の車のある場所へと走った。

けれども、そこにたどり着いてみても真琴の姿はなく、古庄は混乱して、にわかに焦り始める。


――さっき出て行ったばかりなのに、どこ行ったんだ…?!



キョロキョロとあちこちに目を走らせ、真琴を探しながら職員の通用口まで戻って来て、ふと校門の方に目をやると、そこに愛しい人は佇んでいた。


真琴は校門横のしだれ桜の梢を見上げて、1輪2輪、ようやくほころばせ始めた桜の花を探しているらしい。

古庄はホッと息を抜いて、その愛らしい姿を見つめた。



古庄の中に、2年前初めて真琴に出逢った時のことが甦ってくる。


ラグビージャージに着替え、これから部活指導に行こうとしていたあの時。
絢爛に咲き誇る花々を見上げ、桜の下に佇む真琴を、古庄はこの場所から初めて目にした。


初めて経験した感覚――。


体中に強い電流が流れたみたいに動けなくなり、反対に胸の鼓動はドキンドキンとどんどん大きくなった。



< 338 / 343 >

この作品をシェア

pagetop