恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
こんなにも想いが通じ合っているのならば、それはもう、抱きしめ合っているのと同じことだと、古庄は思った。
その時、花曇りの雲の切れ間から日が射し始める。
春の明るくまばゆい光の中、桜の梢を見上げる真琴だけが、まるで照らし出されているように輝いている。
古庄はしばらく、その光景を心に留めるよう見つめて…、真琴へと歩み寄った。
「帰るって言ってたのに、こんな所で道草食ってるなんて、…悪い子だな」
古庄の声が聞こえて、真琴が振り向いた。
いつも自分を見つけた時に見せてくれる、ニッコリと嬉しそうな笑顔に、古庄は今更ながらにキュンと甘酸っぱい感覚を覚える。
「もう桜が咲き始めてるんですよ。ほら」
真琴が腕を上げて、ほころんだ花弁を教えてくれる。
「うん……」
古庄は桜を仰いで頷いただけで、何も言葉にならなかった。
この桜には、あまりにも思い入れが強すぎる。この桜の咲き誇る様を見たり、心に描くたびに、古庄はいつもそこに真琴を投影した。
二人はそれぞれに思いを抱えて、絢爛に咲き乱れる満開の枝を思い描き、まだ咲いていない枝々をただ見入っていた。