恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
トイレの薄いドア越しに聞こえてくる高原の足音と共に、自分の胸の鼓動もドキンドキンと大きくなっていくのが分かった。
高原は、真琴よりも3歳年下の化学の教師。
今年の春に赴任してきて、真琴と共に2年3組を担当することになった。
大学院の博士課程まで出ているらしく、教員になってまだ日が浅いため、逆にそれが初々しい。秀才であることのみならず硬式テニスの経験もあり、同部の顧問をしている、絵に描いたような爽やかな好青年だ。
何事においても完璧に見える古庄自身ほどではないが、女子生徒にも人気がある。
真琴が高原になびいてしまうことなどないとは解っているが、この出来事に古庄はあからさまに動揺していた。
こんなことは、真琴と知り合ってから=真琴を好きになってから、一度もなかったから――。
真面目に仕事をこなす真琴の周りには、もちろん自分を含めてたくさんの男性教師がいる。
けれども、これまで真琴が自分以外の男と仕事以上の個人的な関わりを持つことなどなかったから、古庄は意識のどこかで安心しきっていた部分はあった。
だけど、当の自分がこんなにも恋焦がれて愛しいと思う真琴を、他の男が同じように思っても不思議ではない。