恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
その時だけは、綺麗な佳音の相貌から、きらりと光るような笑みがこぼれる。
でも、それは心の底から笑う屈託のないものではなく、今にもガラスのように砕けてしまいそうで…。
その危うさを思い出して、真琴の心の一部が暗く陰った。
「教えてくれてありがとう。また、気になることがあったら教えてね」
そう言って、真琴は教壇を降り、教室の出入口へと向かう。
そして教室を出て行こうとした時、突然天地の感覚がなくなり、床を踏んで歩いている感覚もなくなった。
「きゃあああぁ!賀川先生――?!」
廊下に出たところで倒れてしまった真琴に驚いて、女の子たちが悲鳴を上げた。
それを聞きつけ、周りにいた生徒たちが集まってくる。その中には、有紀の彼氏の溝口もいた。
「どうしたんだ?!」
「分からない。でも先生が突然倒れて…!」
真っ先に駆け寄っていた有紀が、溝口を見上げて答える。
溝口はすぐに隣の教室へ取って返し、いつものように女子生徒たちに足止めされていた古庄に、この事実を伝えた。
「何だって…!?」
教卓に置いていた授業道具もそのままに、古庄は血相を変えて教室を飛び出してきた。