恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
そうして古庄がトイレの中で悶々と考え事をしている内に、教室の整理が終わった真琴の足音も通り過ぎていく。
息を呑むほどだった美しい夕陽も、もう落ちてしまった。
古庄の目論見は見事につぶされ、“教室デート”はまたの機会に持ち越された。
職員室へ戻ってみたら、真琴は普段と変わりなく仕事をしていた。明日の授業の予習をしているみたいだ。
真面目な真琴は、ぶっつけ本番で授業に臨むことなど絶対にない。
古庄が腰を下ろす気配を察して、真琴はチラリと視線を向けて微かに笑いかけてくれた。
いつも通りの何気ない仕草なのに、古庄の心が甘い蜜にキュンと痺れてくる。
しばらくそのまま古庄は何も手に着かず、新聞を読むふりをして、真琴の様子を窺った。
いつも通り淡々と仕事をこなす真琴からは、先ほどあんなに衝撃的な出来事があったことなど微塵も感じられない。
しかし――、高原の方はそうではなかった。
はす向かいに座る高原は、時折切ない眼差しを真琴へと向けている。
――…あいつ……!
古庄の動揺は、焦りへと様相を変え始める。
一刻も早く、真琴をどの男の目にも触れないところへ連れて行きたい衝動に駆られた。