恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
それでも、戸惑ったり躊躇している猶予はない。
自分の心の安定のためにも、一刻も早く真琴に指輪を贈って着けてもらわなくては。
古庄はキョロキョロと職員室の中に目を走らせ、ある人物に視線を定めると、早速行動に移した。
「谷口先生…。ちょっと今、いいかな?」
古庄と同年代の谷口は、真琴の親友で女子会仲間だ。
遅めの昼食をとり、お茶を飲んでいたところの谷口に声をかけて、印刷室に連れ出す。
古庄の意味深な行動に、谷口も、眉を寄せながらも異を唱えることなく付いて来た。
「単刀直入に言うと、指輪を贈りたいんだ」
印刷室に誰もいないことを確かめて、開口一番古庄がそう言った。
それを聞いて、谷口は目を見開いた。
そしてにわかに頬をバラ色に上気させて、生唾を呑み込んだ。
「……私に?指輪をくれるの?それって、つまり古庄先生は私を……」
歓喜を漂わせ胸の前で手の指を組み、現実を確かめる。
「………え?…誰が、君に指輪をあげるって…?」
古庄は怪訝そうな顔をして、逆に谷口へと質問した。
谷口の眉間に、再びシワがよる。
「……ちょっと、そんな嫌な顔しなくてもいいじゃないの。大体、そっちが誤解するような言い方するのがいけないのよ」