恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
ただ喜びばかりだった古庄に引き替え、真琴は日々変わっていく自分の体と向き合い続けていた……。
メモを走り読みして、真琴が抱えているものに、古庄はやっと気が付く。
新しい命が芽吹いたことは、喜びばかりでなく、考えなければならない問題も一緒に運んできた。真琴が言っていることは、もっともだった。
チラリと視線を向けてきた真琴の目を捉えて、古庄は頷く。
「うん。そのことについては、今度の週末にちゃんと話し合おう」
古庄のその言葉を噛みしめるように、真琴もかすかに頷いた。
その時、古庄は誰かが近づいてくる足音を聞いて、机の上にある真琴から受け取ったメモ用紙を、とっさに丸めてズボンのポケットに突っ込んだ。
真琴も、何事もなかったかのように、机に向き直って仕事を再開する。
「古庄先生……」
聞き慣れてしまったこの声。
目を上げなくても、真琴には佳音のものだとすぐに分かる。
古庄が席を立つ気配を、真琴の左半身が敏感に窺った。
古庄の所へ女子生徒が来ることは日常的なことだと、自分に言い聞かせる。
それでも、真琴が思わず顔を上げてしまった時、古庄の背中は佳音と一緒に職員室を出て行くところだった。