恋はしょうがない。〜職員室の新婚生活〜
教室に残っている生徒達と言葉を交わせば、その時だけは体の重さも少しは和らいだ。
真琴のクラスの教室には、有紀と数人の女の子たちが、残って勉強をしていた。
「先生。この頃、体調は大丈夫?」
教卓のプリント類の整理をしていた真琴に、有紀が尋ねてくる。
生徒の目の前で2度も倒れたとあっては、有紀でなくとも心配をして当然だ。
情けないやら、恥ずかしいやら。真琴は、肩をすくめて小さくなって頷いた。
「うん。ちゃんとお医者さんに行って、貧血の治療をしてるから大丈夫よ」
産科の医師からは、妊娠中でも飲める貧血の薬を処方されているので、嘘は言っていない。
「やっぱり貧血だったんだ。大変な病気じゃなくて良かったね。でも、まだちょっと顔色悪いね」
貧血はずいぶん改善されたけれど、つわりだけは妊娠していることへの体の自然な反応なので、どうにもならなかった。
真琴は思わずお腹に手を当てて息を吐き、生徒たちに心配させないように笑顔を作った。
それから、他愛もないおしゃべりに付き合わされて職員室に戻ってきた時には、外はすっかり暗くなってしまっていた。
それに、今日は金曜日だ。早く帰って、古庄と一緒に食べる夕食を作らねばならない。